若草山山焼き
2004年1月11日(日) 曇り 17:50〜18:00
奈良県奈良市若草山
明けましておめでとうございます。そんな挨拶で始まった一週間、また忙しい日々が戻ってきました。すっかり鈍りきった身には辛い、いつもの倍ぐらい長く感じた一週間だった。仕事始めの週を何とか無事に乗り切って訪れた3連休、松も取れる頃になってお正月がもう一回やって来たようでとっても嬉しい。そしてこの3連休の楽しみは何と言っても花火。冬の大和路を彩る風物詩、奈良「若草山山焼き」を訪ねたのです。
奈良県って久しぶりやなぁ・・・・。奈良は近くて遠い県、そんな印象でした。特に花火を追いかける私には、奈良はあまり縁のない地域だったのです。今回は花火が縁で「若草山の山焼き」を初めて観覧する運びとなったが、実は奈良の花火もこれが初めて。夏の花火大会とは性質の違うイベントなので、これを観て奈良の花火を観たとは言えないが、とにかく初観戦が実現した。
ところで「若草山の山焼き」をイメージすると、旅行雑誌などでよく見かける、全山燃え上がる若草山に舞い上がる花火、これに五重塔などの古都奈良らしいシルエットが入る構図の写真が思い浮かびませんか。どうやったらこんな素敵な写真が撮れるんやろう?写真をかじり始めた私が真っ先に抱いた疑問だ。インターネットにより、撮影スポット、撮影方法を知ることとなって、まずは山焼き一の人気を誇る撮影スポットから訪ねることにした。
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| 大池周辺の様子、昼間から人垣です |
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| 大池越しに望む薬師寺と若草山 (画面中央なのですが) |
奈良市西ノ京にある薬師寺、その西隣に広がる大池。池越しに薬師寺の金堂と東西両塔を手前にして、背後に若草山が入る絶好のポイントです。狭い道を走り抜いてここに到着したのが13時過ぎ、道端にはずらり車が駐められており、赤色灯を灯した警察車両が警戒に当たる物々しさにびっくり。車内に妻を残して恐る恐る池に近づいてみると、おぉ〜凄い人。池沿いは三脚林立、まるで針山。道路奧の山肌にも三脚があちこちに立っているじゃないか。夜になると千人もの写真愛好家で埋め尽くされるとの話もこれを目にして納得が行った。愛好家の中に近づいてみると、みんな今夜の撮影方法とか過去の経験談を熱く語り合っている。とにかく今夜の撮影は多重露光によるたった1回きりの勝負、失敗は許されない。この一枚に懸けるという気合いがひしひしと伝わってくるのだ。きゃしゃなデジカメをぶら下げ、スナップ写真程度しか撮れませんよって宣伝しながらロケハンの真似事をしている私には近寄り難い世界が広がっている。それは神戸の「300秒の光のクリスマス」で体験した寄り添う恋人達で溢れていたあの熱い空間を思い起こさせる写真プロ愛好家同士だけが集う熱い空間だった。あかん儂にはとても無理や。興味本位で訪れただけの私は、ここに存在すること自体が邪魔者のように思えてならず、大池と薬師寺の写真を何枚か撮ってさっさと退散する。帰り際「いつから場所取りしてはるの?」って尋ねてみると「2、3日くらい前には埋まってるみたいだよ」って言われてびっくり仰天(中にはとんでもない前から場所取りする強者がいるそうです)。とにかく、あまりの熱気に尻込みです。大池に集まったこの大勢の太公望たちが、今夜、大きな1枚を釣り上げ、日本中にとっておきの成果を届けてくれることでしょう。
2番目の人気スポットは平城宮跡の朱雀門付近らしいのだが、あの熱気を目の当たりにして、とても訪ねる気持ちにはなれず、そのまま奈良公園まで直行した。
阪奈道路を東へと進み、奈良の市街地に入る。やがて車の流れが鈍り、渋滞のまっただ中に突入。渋滞の原因は奈良公園付近で駐車場を探して、道路に溢れかえる車だった。この日、奈良公園付近の駐車場はかなりの広範囲で満車状態であった。当初、奈良公園前の県庁有料駐車場を狙っていたのだが、入り口ゲート前には入庫待ちの車がずらりと並んでおり、とても最後尾に並んで待つ気にはなれない。大きな駐車場は何処もそんな状態で、路地裏の民間駐車場狙いに切り替えた。ところがこちらは「鍵を預けて」って言うごちゃごちゃに詰め込もうとする駐車場が大半で、5件目くらいでようやく普通の駐車場を見つける有様だった。「本日は午後5時までのご利用の場合1000円、5時以降は1500円です」って駐車料金を請求され、「そんなもん5時までに帰れるわけないでしょうがー」と表に立ててあった1000円の看板はなんなのよーと不機嫌な表情で、駐車料金を支払う。それにしてもまともな駐車場に車を駐めるのに1時間以上彷徨った、車って便利だけれど煩わしい。
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| 奈良公園・愛らしい鹿 |
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| 鹿の決闘です |
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| 奈良公園・三脚を立てる人々 |
15時30分、奈良公園に着。可愛いらしい鹿たちの出迎えをうけ、強張っていた表情を和ませてくれた。暫くは愛らしい鹿との触れあい、記念撮影を妻と楽しんだのです。奈良公園のシンボル“鹿”、たいへん人に慣れており、餌をねだって近寄る鹿をつい触ってみたり、頭をなでたりするのだが、時には危険な行動をとることがある。この時期は比較的おとなしいようだが、雄鹿同士が激しく頭(角)をぶつけ合って決闘を始めた。たちまちギ
ャラリーに取り囲まれ、やんややんやの大声援。酔っぱらいのおっちゃんが「鹿が相撲とっとる」と大きな声援をあげる姿が笑えた。公園内ではあちこちに鹿への注意を喚起する看板が掲げられている。奈良の鹿は立派な住人、車が通る道路を横断するなど、自由に動き回る鹿と人間が共生する環境に接しみて、やはり驚いた。
奈良の大仏、東大寺への参拝を終えたのは、16時30分頃となった。それから若草山へ向かう。途中、公園内の見晴らしの良さそうな地点に三脚が立てられている光景を何度も目撃しながらの山焼き会場行き。春日野、飛火野園地の間を抜け、若草山山麓に向かう道中。この辺りを歩くのはガクラン姿で訪れた奈良シルクロード博以来だなぁと感慨深いものがあるのだった。
17時、若草山山麓の山焼き会場に着。既に大勢の観衆が集まっており、大会本部前では、警察・消防団員などの出陣式のようなセレモニーが行われていた。特に、消防関係の方々の多さに驚くと共にこれから始まる山焼きを実感させられる。
よし、三脚にカメラを据えよう。全山枯れ草で覆われた若草山が正面にそびえる、これを麓から見上げるようなポイント、ここが今回の撮影現場だ。多重露光する機能のないカメラでは当然の結果、変に構図を求めるよりも、かぶりつき派の私にはこの方が似合っています。(仮に多重露光機能付のカメラがあっても撮影できる腕がないことからここにしただろうな)
さて、これからは山焼き行事を楽しむ番。山焼きにはタイムスケジュールがあって
・17時15分 聖火行列
・17時30分 山焼き祭典
・17時50分 花火打ち上げ
・18時00分 若草山山焼き
となっています。なお、これら行事に先立って、14時頃に「わかくさ太鼓」が披露され「若草粥」のふるまいがここで行われたようです。
新しいバッテリーに入れ替えたカメラを手に気合いが入ってくる、これからが私の本番なのだ。妻に荷物を託して、単独行動が始まった。今回の目的は行事毎のシーンを撮影すること、もちろんメインは花火。
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| 山麓の大かがり火 |
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| 山麓より会場内を望む・夜景が綺麗だ |
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| 野上神社での祭典の様子 |
◎聖火行列−春日大社の聖火を10名の奈良法師が神官と共に麓の野上神社(春日大社の末社)まで運ぶものです。
会場前の石段上に三脚を立てて撮影を試みました。聖火を手にした僧侶が、練り歩く勇壮なさまを上から見下ろすアングルで撮ろうとしたのだが、聖火の行列が階段を上り始めた時、何と後ろのおじさんが私の前に立ちはだかって写真を撮りだした。「ちょっとちょっと見えへんでしょう」と注意するも全く退かない図々しさ。「おい。そんなとこ立ったら撮れへんやんか!」温厚な私も思わずムカッ!面と向かって不満をぶつける。罰が悪そうな顔をするも、この若僧めがと言いたげな顔で、誤りもせずに立ち去る図々しさには呆れた。
◎山焼き祭典−山麓の野上神社に聖火が運ばれ、ここで春日大社の神官が山焼きの無事を祈願します。この祭典の後、興福寺や東大寺の僧侶らにより山麓中央の大かがり火に点火されます。
野上神社は会場の直ぐ脇にあって、既に多くの観衆に取り囲まれており、近寄ることもままなりません。ここでの祭典は随分時間をかけて行われるもので、その間、山を登って山麓中央の大かがり火付近に訪れる。ここから眺める奈良の夜景は素晴らしいものだった。ここで写真を何枚か撮って、かがり火に火が入る前に急いで山を下り、妻のもとへと戻った。寒さで震えている妻と、山麓を走り回って息を切らせ額にうっすらと汗を浮かべる私は好対照だった。本部テント付近は大勢の人々でごった返していたので、少し離れた地点から花火撮影に臨む。

◎花火打ち上げ−17時50分から18時までの10分間、若草山の一重目山頂から約200発の花火が打ち上げられます。
山焼きに華を添える花火の打ち上げがここで始まる。花火は若草山一重目付近から打ち上げられるもので、珍しい山花火。この時点では大かがり火に火が入っておらず、会場付近の照明灯の明かりがほのかに場内を照らすといった好条件での観覧+撮影。辺りは暗いものの、視界が全く効かないという環境ではなく、程良い闇に包まれるものであった。花火は一重目山頂付近から上がるようだが、山麓から鑑賞するとまるで、山上を見上げるようなアングルになる。今夜は北西の風が吹き抜ける状態での打ち上げ、山麓では風を感じないが、山上ではそこそこ吹いてそうで、風向きも支障なし。バックには満天の星空が・・・・って光景を夢見ていたのだが、今日は一日中曇り空、残念ながら星は全く見えない。
ボボーン、2カ所から寒空を切り裂いて炸裂する花火、定刻よりやや遅れて、何のアナウンスもなく突然に始まった。最初にドドーンといった後はミニスターマイン、そして単発へと展開。曲付の花火が2カ所から何度も打ち上がった。間近で観る冬花火、「おぉーう」その美しさにジーンとくる。暗闇に包まれた山腹で燦爛と輝く冬の花火、その発色はいつも以上に美しく、冠の淡い黄金色も、キラ星の輝きも何もかもが冴えわたるように感じた。花火の爆音もいつもより乾いたサウンドが山肌を這い降りてバシュウーンと全身に突き刺さるもの、若草山花火の醍醐味を存分に味わった気分です。
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| 大かがり火の炎を運ぶ消防団の一行 (画面中央下)と上空を彩る花火 |
見た目の推測ですが、単発は5号クラスの玉が上がっており、霞草芯入霞草、金八方入芯入牡丹、一輪の蝶などがソロで登場すると、やはり感情が入ってしまう。単発は芯入りの割物が多数登場するもので、思っていたよりもずっと見応えのあるものだった。(型物などの安っぽい玉はなかったかな)上空の風はそこそこ強く吹いてそうで、冠など引きの強い花火は、風に大きく流されて、美しい光の光跡を描いていた。隣の子供が「花火の雨が降っている」って漏らした感想のとおり、山肌に光の滴が降り注ぐシーンが印象的。
山麓のメイン会場から観る若草山の花火、麓から山頂を見上げるようにして観覧するため、山腹で行われている山焼きの行事が花火と同時に鑑賞できる。花火打ち上げ開始から暫く経って、山麓の大かがり火に点火され、その火を消防団の方々が山上に運ぶ様子が充分確認できた。そして、花火を打ち終える頃には、松明を手にした消防団の方々がすっかり山を取り囲むようにして配置を終えていた。
花火は両脇から椰子、真ん中からスターマインという豪華な一幕も経て、色芯の入った綺麗な菊ものの連打に入る。次がフィナーレだな。各地の花火を観覧した経験上そう直感して、シャッターチャンスを狙った。フィニッシュは3カ所からの冠菊の一斉打ち、ヒューっと音を立てて光の尾を引きながら昇る花火にタイミングを合わせてシャッターを切る。ところが昇りゆく冠に心を奪われ「うぉー」と叫び、拳を突き上げてしまう。思わず我を忘れ、シャッターボタンから手が離れてしまった。こうして最高のシーンを撮り逃した。(写真参照、この後、見事な錦模様が広がった)何度学習しても身につかない、新年早々、毎度の事ながら失敗です。
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| クライマックスのシーン・へた! |
花火は、失礼ながら思ってたよりもずっと良く、これが200発の花火?と質したくなる内容だった。実質7分程の打ち上げだったが、十分に楽しめるもの。ため息が白い息と共に漏れていた。
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| 若草山山焼き:ここでは炎の燃え広がる勢いを直に感 じることができますが、全体を見渡すことはできません |
◎山焼き点火−18時、号砲とラッパの合図で山焼きが行われます。
花火が打ち終わると、いよいよ山焼きだ。ドンドンドドドーンと轟音を放つ段雷が何発か上げられ、続いてラッパが賑やかに鳴らされる。これを合図に消防団約300人により一斉に火が入った。紅い炎はバチバチと音を立てながら、みるみるうちに山肌を焼き尽くしていく。火の行事は色々と観て来たが全山まるごと焼き尽くす様は壮観であり、炎の恐ろしさを改めて思い知らされた。
こうして、古都奈良の冬の風物詩、若草山山焼きを楽しんだ。山焼きは、1時間くらいかけてゆっくりと燃え続いたようだ。ところが最後まで見届けることなく、30分程眺めた後、山を下りる(やはり寒いかった)。駐車場に戻って若草山を遠望すると、山はまだ燃えていた。
阪奈道路を西へドライブするうちに、「山焼きをもう一回見よう」という話になった。もちろんそれは口実に過ぎず、実は久しぶりにあの場所から、あの感動と再会したかった。阪奈道路から信貴生駒スカイラインに入る。このスカイラインからは奈良盆地の夜景を一望できるのだ。でも本音はここから見る大阪の夜景こそ最高のものだとお互い知っていた。ちょうど10年前の冬、感動的な夜景を求めて妻を連れ、名古屋から長駆して訪れたのがこの生駒山だった。あの時の記憶は忘れられない。
カーブが続く山道を登りつめ、視界がすっぱりと開ける。すると大阪平野の美しいとしか形容の出来ない素晴らしい夜景が目の前いっぱいに飛び込んできた。ここの夜景は本当に極上、時間を忘れて見入ってまうものだ。
どこまでも続く光の帯び・・・・・・・・美しい・・・・・・・・素敵だ・・・・・・・・最高だ・・・・・・・・
おっと忘れていた、極上の夜景にすっかり見とれてしまって、若草山を忘れていた。遅ればせながら東の奈良盆地に目を移す、すると燃え上がる若草山の姿はもう確認できなかった。時計は20時30分を過ぎていた。
二人だけの空間で極上の夜景を満喫する。当然、この舞台に相応しい曲を流してロマンチックな空間を演出した。ところが「ゲプッ」くっさー、スカイラインに入る直前に入った中華料理店で食べた餃子の匂いが車内にたちこめる。せっかくの雰囲気がぶち壊しだ。もう〜!!昔はこんなヘマしなかったのに・・・・。10年経っても夜景の美しさは変わらないが、二人はすっかり所帯じみてしまった。
翌朝、近所の図書館で朝刊各紙に目を通す。各紙とも若草山の山焼きを伝える素晴らしい写真が一面を飾っていた。もちろん、一番人気のあのポイントから撮った写真が多数含まれており、それらの写真には例外なく17時50分から19時頃までの多重露光撮影と書き添えられていた。あの太公望たちもきっと満足したことだろう。
若草山の山焼きはプロ写真家を熱くさせるイベントだった。