篠田の花火
2004年5月5日(水) 曇り 20:00〜20:30
(今年は雨による順延のため花火だけの奉納となりました)
滋賀県近江八幡市上田町 篠田神社境内


 5月4日夜、降りしきる雨を避けるかのようにして我が家に飛び込んできた珍客が一足早い夏の訪れを告げてくれた。子供の頃、野山に出向いて集めた可愛い奴。夜になるとカサカサと忙しなく動き回るこいつをぼんやりと眺めながら、国選択無形文化財、伝統の和火「篠田の花火」に思いを馳せてみた。


境内に築かれた巨大な足場
ここに和火が仕掛けられます

 4月29日、およそ1年ぶりに訪れた篠田神社、境内ではちょうど和火の大仕掛を組み立てる巨大な足場が築かれたところだった。その傍らには、シートに覆われた2基の大松明がごろりと横たわっており、祭りが近いことを知らせている。日本で唯一の古式花火「和火」、訪れる人々を圧倒し、そして魅了する壮大な和火の大仕掛がここに組み立てられる。暗闇に青白く妖しく輝く伝統の炎が織りなす幽玄の世界へ。5月4日、今年もまた感動のドラマ「篠田の花火」が繰り広げられる。

 今年はネットで知り合った方々の関心も高い篠田の花火、ところが5月4日は天気予報通りの無情の雨に見舞われた。朝から降りしきる雨、少々の雨ではビニールを被せて仕掛を組み立てると伺っていたので、もしかしたらと思っていたのだが、昼過ぎから強風を伴った横殴りの猛烈な雨となる。雨の中でも打上花火は大丈夫だろうが、果たして仕掛け花火になると、とても無理なのでは・・・・。
 土砂降りの中、篠田神社に訪れた。開催の可否は14時頃に決定すると伺っていたのでこの時間に訪れたのだが、もはや今夜の花火はあり得ないと確信できる絶望的な雨だった。14時、篠田会館から氏子さんが一斉に出ていく姿を見届ける。もちろん今夜の花火の奉納は雨のため明日に順延となった。良いコンディションで迎えたかっただけに、これは仕方のないことだと諦めて、早くも明日の予定をどうやりくりするか思案しながら帰路に就いた。
 明けて5日は朝からどんより鉛色の空模様だが、予報では次第に回復の見込み、夜の花火の奉納はまず大丈夫だろう。さて、今日は遠方の友人が我が家に訪れることになっている。篠田神社へ向かう段取りもあるし、う〜ん困った。妻と二人で見に行くことは無理かな。久々に妻を欠いた独りぼっちの花火観戦となりそうだ。
 16時頃、篠田神社境内に入る。するとすでに組み立てられた和火の大仕掛が圧倒的なスケールで迎えてくれた。思わず立ちつくし、じっと見つめ、感嘆の溜め息を漏らす「あぁ凄い、和火の大仕掛だぁ・・・・」。毎年感じることだが、この仕掛け花火は見ているだけで引き込まれていきそうな神秘的な魅惑を放っている。それは単に大きいとか絵柄が凝っているというものでなくて、毎年心に深く刻みつけられるメッセージを含んだ絵柄の和火が放つあの独特の発色が導く幽玄の世界を知るが故に心からそう感じてしまうのだ。
 暫く、呆然と仕掛を見つめていたのだが、周囲に目をやると境内は例年になく閑散としたもの。ひい、ふう、みい・・・・指で数えられるほどの観衆の入り具合に、雨で順延になったとはいえ、随分と寂しい花火になりそうだ。

広場に立てられた大松明
例年、宮入の後に境内に立てられるのだが

今年は松明の立てられない篠田の花火になる

 さて、ここから夜の花火までを先着の愛好家の方々との楽しい歓談の一時で過ごすことになる。いつもお世話になりっぱなしの「中部の花火情報館」館長のNAKAさんをはじめ、「関西の花火」の牡丹さんや花火愛好家の方々との歓談を楽しんだ。ネット上で使うハンドルネームで呼び合う会話に多少戸惑いを覚えるのだが花火を愛する気持ちは皆同じ、情報交換や早くも夏の観覧計画を話し合ったり、実に有意義な時間だった。ホームページを公開してはじめての本格的な出逢い、今年の篠田は記念すべき思い出の花火となりそうだ。
 話し込んでいるうちに境内はうっすらと夜の帳に包まれる。どこで撮影するかを決めなくてはならない。篠田の花火、呼び物の和火の大仕掛を東の杜に臨む境内の観覧場所は、必然的に反対の西側の境内、しかも石垣上となる。問題は仕掛花火と打上花火の双方を捕らえきれる場所をどう確保するか、境内の上空には本部席と仕掛を結ぶロープなどが何本か張り巡り、境内入り口の南側付近には洋火の仕掛けとナイアガラが引っかかってこちらも花火の撮影に支障が、しかも私のカメラの性能の問題もあってこれには大いに悩んだ。愛機ニコンクールピックス4300の標準レンズでは広角に限界がある。当初、境内南側の広場で披露される復元花火「三国一」をなんとか鑑賞したく、なるべく南寄りに場所を取っていたのだが、時折放たれる呼び込みの3号玉の段雷を眺めては、ここでは打上花火の撮影に不向きだと悟って、場所を移すことを決意する。和火はもちろん、10号までの全国の芸術玉も撮りたい、どうするさて困った。(今年の篠田は18時過ぎでも撮影場所を選択できる余裕があった)
 決め手は閃きだった。私同様に撮影場所に悩んでいた牡丹さんとあれこれ思案中。観衆は徐々に増えてくる、どうしよう、早く決めないと埋まってしまう・・焦る。そんな時「大松明のない篠田の花火は今しかない」という牡丹さんのアドバイスを聞いて「なるほど!よう考えたらその通りやね」閃いたように和火の大仕掛を真っ正面に臨む場所を確保した。頭上にはロケット花火を通すロープもちょうど張っていない、仕掛を結ぶロープに付いた赤い紙のひらひらが多少気になるものの「よしここだ、かぶりつけ!」とばかりに場所を確保したのだ。クールピックスの画角には近すぎて、ほんの少し入りきらない場所だが、大松明のない篠田の花火を鑑賞する希な機会を逃す術はない。(例年、2基の大松明が担がれて宮入した後に立てられるのだが、これが観覧席となる西側石垣のすぐ手前に立てられる。従って和火の絵柄を正面から撮影することができない)

 今夜の篠田の花火は雨による順延の影響で花火だけの奉納となった。例年、20時頃から始まる大松明の宮入、これを境内に立て終えた後の21時頃から花火の奉納が始まり、終幕の大松明の奉火へと神事が進むのだが、4日に大松明の奉火を終えたことから、今夜は1時間繰り上げ、20時から花火だけの奉納となったのだ。
 毎年絵柄が変わる篠田の花火。高さ12メートル、幅20メートルにもおよぶ大キャンパスに描かれた壮大な仕掛花火、今年は絵の題材にユネスコの世界遺産構想をテーマにした「紀伊山地 吉野熊野の霊場古道」を取り上げ、那智山青岸渡寺と那智の滝、飛瀧神社に参詣する平安女性の姿を描いている。もう一つのテーマ「Mars=ares」、洋火に描かれた火星は、昨年の火星大接近による戦乱を示している。イラク戦争に象徴されるように世界は戦乱に見舞われた。今年の絵柄には平和への願いが込められていたのだ。那智の瀧に手を合わせる女性の姿は、平和を祈る姿に見て取れる。もちろん、花火は平和の象徴と言える。4月に観覧した手力雄神社の火祭りでも開幕に先立って平和への願いが読み上げられたが、ここ篠田神社でも同様の始まりとなった。

 花火奉納に先立って約10分間ほど場内にアナウンスが入る。和火、絵のテーマをじっくりと拝聴する。すでに多くの観衆で埋まり、ざわついでいた境内もこのときばかりは静かにアナウンスを受けていた。篠田の花火、訪れる人々に深い感動を与える神秘的な花火がこうして始まる。
 境内の南側を覗くと、新幹線のガードを越えた先に鳥居があるのが確認できる。その両脇で花火が打ち上げられるのだ。20時、3号5段雷の一斉うちで賑やかに開幕を告げた。
 最初に復元花火「三国一」が境内前の広場に組み立てられた高台の上で披露されるのだが、残念ながら鎮守の杜に引っかかって全く鑑賞できない。うっうっ無念じゃ、覚悟していたのだがこの場所では仕方ない・・・・。続いて打上花火の奉納へと進む。篠田の花火の魅力の一つに打上花火の奉納があるのだが、これが全国の芸術玉を披露するもので、しかも7号を中心にとっておきの10号玉まで披露される。息を呑んで見つめていた昨年までとはうって変わって、今年はカメラに収めようと全神経集中で臨んだ。
 先陣を飾ったのは、岐阜高木煙火さんの花火だった。4号ニコちゃんの連打に始まって、5号と7号の錦冠菊の一斉打ちでフィニッシュ、今年初の7号玉、こんなにデカかったのかと感動する。続いて7号を中心とした全国の花火が1発ずつ、丁寧な呼び出しのアナウンスに導かれながら颯爽と登場する。注目していた江濃煙火さんのドミノ芯引先オレンジ先割、芯の変化を十分に確認できず写真も芯抜けと惨敗(すみません)。北日本花火興業さんの華桔梗心キラキラ、同トリプルリング残冠菊、うお〜素晴らしい。中国製の霞草芯彩色分砲千輪菊だって立派に咲いている。イケブンさんの7号5号の三色千輪菊がドドーンっと決まった後の締めにはとっておきの10号玉3発が奉納される。今年初の10号玉、凛と輝く堂々とした割物3連発に、うっそーこんなにデカかったのか!とまたまた感動、感激。カメラを通して見る篠田の花火は格別だった。滋賀で10号がこれほど大きく鑑賞できる場所は他にはないかも?もちろん私の愛機には収まりきらなかった。
 和火に華を添える打上花火の奉納、秋田から滋賀にまで及ぶ芸術玉と中国製の花火7号2玉5号1玉を交えての大競演は大変に見応えのあるものだった。(打上花火は全部で17番のプログラムで構成され、内訳は4号10玉、5号5玉、7号14玉、10号3玉の32玉が奉納されます)

7号 霞草芯彩色分砲千輪菊
 中国 サンタイ煙火公司
7号 変芯変華草
滋賀 江濃煙火
7号 紅芯水色牡丹
宮城 佐藤煙火
7号 トリプルリング残冠菊
秋田 北日本花火興業
 5号7号 三色千輪菊
 静岡 イケブン
10号 紫芯菊先緑紫銀乱
長野 アルプス煙火
10号 紅緑芯菊先青紅
新潟 阿部煙火工業
10号 紅芯銀椰子錦緑紅スパン
静岡 イケブン
洋火 「Mars=ares 火星&HARRY POTTAR」



 「ドカーン」突然地上で爆発する地割号砲、どよめく場内。東の杜で爆発した号砲を合図にして、境内の花火の奉納が始まる。
 私の後方に高く築かれた本部席からロープを伝って、ロケット花火が発射される。シューっと音を立てて洋火の仕掛を目指して飛んでいくロケット花火、この演出には深い意味が込められていた。(この後の和火点火にて気付きます)
 洋火に火が入り、夜空にカラフルな絵模様が鮮やかに浮かび上がる。縦5メートル、横8メートルに及ぶ仕掛、しかも空中に吊られるようにして仕掛けられており、境内のどこからも鑑賞できる見事な仕掛だった。続いてナイアガラが荘厳な銀の滝を演出する。カラフルな洋火と銀滝、普段各地の花火大会で目にする仕掛花火をじっくりと味わった後、ここでしか鑑賞できない古式花火、いよいよ和火の登場となる。

和火の大仕掛、びっしりと描かれた複雑な構図
よく見ると様々な仕掛が施されている
和火に点火した瞬間。仕掛の両脇から炎が燃え
さかり、一瞬にして大仕掛は炎に包まれる
激しく回転する廻り火と勢い良く放たれる乱玉。
硫黄を主体とする和火が浮かび上がる間を見事
に繋いでくれる
炎と煙が収まった後に姿を現す和火、オレンジ色
にメラメラと燃えさかる炎を纏った姿。この時点で
は絵柄を確認できない




 和火撮影のマナー、最初の5分間はフラッシュ撮影禁止の遵守を改めてアナウンスしたうえで(今年は徹底されています)ロケット花火の点火を迎える。ロケットを通すロープの下にいる観衆が危険だからとどかされ、一時は騒然となるのだが、やがて境内は静まりかえる。今年はあの太鼓、鉦の盛んに鳴らされる賑やかさのない静かな始まり、何とも言えない緊張感を伴ったときめきがその場の空気を支配し、誰もが息を呑んで一点を見つめている。静かと言うより厳かな始まりだった。
 皆が見つめる中、ロケット花火が発射されて、和火に向かってまっしぐらに突き進んでいく。やがて和火の大仕掛を目前にして、ロケットは進まなくなる。「もうちょっとや。頑張れ!」場内から漏れ伝わる声援、拳をぎゅっと握りしめる。みんながロケットを後押しするのだ。しかし、空中で停まったまま動かない。「進め!」「行けー!」あちこちで飛び交う声援、祈りにも似た声、観衆の心を一つに導くロケット花火、しかし和火までの後り僅かがどうしても進まないのだ。やがてロケット花火が放つオレンジ色の火勢が弱まり、力尽きるかのようにして消えかかる。「あかん」「あぁ〜。後少しなのに〜」こぼれる溜め息、すると次の瞬間、逆方向に火が入って勢い良く火の粉を撒き散らす。逆方向とはつまり和火の大仕掛に向かって火の粉を撒くのだ。(これを受けて和火に着火します)
 嗚呼。なんという奥の深い演出だろう。ロケットが発射されてから和火に着火するまでのほんの数分間、この張りつめた緊張感、誰もがドキドキと胸躍らせて見つめ、待ちわびる一瞬を見事に演出しているじゃないか。観衆の心を一つに導く、心憎いまでの演出が施されていたのだ。(昨年まで気付きませんでした。すみません)

 「ドーン!」「バチバチバチ」「ヒュー」一瞬にして爆音と炎、そして煙に包まれる和火の大仕掛。乱玉が勢い良く放たれ、廻り火が激しく回転する。やがて、燃えさかる炎がおさまり、煙の向こうからうっすらと姿を現す和火。その正体は、あの独特の青色、ふじ色といったものでなくメラメラと燃えさかるオレンジ色の炎を纏ったものだった。やがて、オレンジ色の炎が収まり青だけが残ってくる、同時に構図が浮かんできて辺りは幻想的な風景へと変わる。闇夜にくっきりと浮かび上がる和火、例年になく複雑な構図の絵柄は、最初オレンジ色の炎が揺らめき、何がなんだか判らないのだが、炎が収まるにつれて徐々にその姿を現してくる。やがて、妖しく輝く和火だけが残り「紀伊山地 吉野熊野の霊場古道」が描き出された。幽玄の世界へ導かれたのだ。
 約10分間続く神秘的な和火の輝きが演出する幽玄の世界、そのスペクタルに包まれると誰もが魅了され呑み込まれる。それは、時の経つのを忘れてしまう情景だった。私はただ見つめ、そして何枚も写真を撮り続けた。じっくりと見つめていると構図や色の変化が伝わってきて実に趣深い。和火の青も10分という時間を経て少しずつ淡く変化していく。後半の消えかかるころに残った和火が見せる姿、おぼろげに絵柄を残しながらゆっくりと消えていく姿を感慨深く見守った。

 「はい5分です。今からフラッシュを使って撮影しても結構です」解禁のアナウンスに待ちわびた観衆から、堰を切ったようにフラッシュがたかれる。その閃光は和火の色を打ち消し、杉板に反射してせっかくの舞台を台無しにしてしまう。それでも今年は直ぐに収まった。主催者の意図が伝わったのかもしれない。昨年は和火の点火と共に容赦のない猛烈なフラッシュを浴びせられた。何度も注意のアナウンスを入れ「フラッシュを使っても和火は写りません。やめて下さい」と懇願するように訴えても、マナー守らないカメラマンが多くいた。怒号と罵声が飛び交う中、ようやくフラッシュが収まった時には、既に和火の絵が浮かび上がっている有様だった。
 今年は文化庁の映像記録による伝承保存事業を行っていることから、和火点火後の5分間はフラッシュ撮影禁止の措置が執られたのだが、そのおかげで和火の点火から硫黄の燃焼していく様子をじっくりと鑑賞できた学ぶことの多い篠田の花火となった。できることなら最初の5分間といわずに、最後までフラッシュ撮影を禁止にして欲しい。

 20時30分、段雷が賑やかに鳴り響き、篠田の花火は幕を閉じた。和火の大仕掛にはまだ燃え残る青い炎がゆらゆらと点在している。消口も一様でないと感じた。和火の大仕掛に近づき立ちつくして眺めている私の傍らでは、消防団の方々が放水の準備を始めている。暫くして仕掛に放水がされると、シューっという音を立てて残り火がすっかり落とされていく、1ヶ月以上かけて創り上げた傑作、40枚もの杉板に描かれた壮大な和火の大仕掛は静かに役目を終えていった。

 境内に立ちこめる硫黄の匂いが壮大な和火の余韻をいつまでも残すなか、篠田神社を後にする。篠田神社からの帰路には、今年からの試みで始まったというオリジナル提灯の列が鮮やかにライトアップされ、こちらも祭り情緒を醸し出していた。


 古式花火「和火」の聖なる炎が織りなす感動のドラマに今年もまた心を奪われ、呑み込まれていった。篠田の花火、本当に素晴らしい。時を越え連綿と受け継がれてきた和火、伝統の技を今に伝える上田の皆様に感服する。

   炎が収まりうっすらと浮かぶ和火、暗闇に青く妖しく輝く和火が描く
   芸術作品「紀伊山地 吉野熊野の霊場古道」。嗚呼、なんて神秘
   的な一時だろう。感動を覚えずにはいられない

*和火の絵柄について、補正を施した画像を掲載しました。


クワガタ虫

 こんなに早くこいつの姿を見ることになるなんて。篠田の花火が終わると春に別れを告げ、いよいよ楽しみの夏の訪れを感じる。
 さて、日記も書き終えたので、こいつを夜空に帰してやろう。また遊びに戻って来いよクワちゃん。

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